買収価格交渉の土台

 基本合意書で買収価格(仮条件)を合意し、デューデリジェンスに入りました。
 デューデリジェンスにより、決算書に問題点が見つかりました。
 この問題点は、買収価格交渉の材料にできるでしょうか?

 具体的に考えてみます。基本合意での買収価格は次の算式により計算されています。

平成31年3月期の簿価純資産額+のれん(平成29年3月期から平成31年3月期までの経常利益の平均×5倍)

 そして、平成31年3月期末を基準日としてデューデリジェンスを実施しました。
 平成31年3月期末の売掛金についてその後の入金を確認をしましたが、未入金のものが50百万円。
 調査の結果、処理のミスで、平成31年3月期に、売上50百万円が二重計上されていると判明しました。

 こうなると、平成31年3月期の実態としての簿価純資産額は、基本合意時点での認識より50百万円小さい、ということになります。
 のれんも、実態としては83百万円小さいことになります。
(経常利益平均への影響(△50百万円÷3)×5倍)
 よって、最終的な買収価格は、基本合意での買収価格(仮条件)から133百万円を減額した金額にしてもらいます、と、論理的に、要求できます。
 これは、基本合意段階での買収価格に根拠となる算式があり、その中で、直前期(平成31年3月期)の純資産額と利益額が用いられているためです。
 故に、直前期の純資産額と利益額が小さくなれば、算式により計算される買収価格も小さくなって然りです。

 ところが、実際には、基本合意段階での買収価格(仮条件)に、このような裏付けのないケースが多いのです。
 何故でしょうか?
 最も多い理由は、売り手の希望価格に基づき(あるいはここから一定の減額をして)基本合意での買収価格(仮条件)が決まっており、その希望価格は財務数値から導かれたものではないため、だと思います。

「根拠はないけど○億はないと僕は嫌、それだけの価値、我が社にはあるでしょ!」
「んまぁ、わかりましたけど、うちも○億を超えると社内で話が通らないので」
 などのやり取りで決まるケースです。

 あるいは、当初は提示額には計算式があったものの、交渉が進むにつれて、買収価格が計算式から離れて一人歩きしてしまった、といったケースもあります。

 このように、基本合意段階での買収価格に裏付けとなる算式がないケースでは、デューデリジェンスにより純資産額や利益額の減少につながる問題が見つかったとしても、ディスカウントの求めても良いものだろうか、と常人は思ってしまいます。
 論理的でなく、はたして売主が納得してくれるだろうか?
 そこで、基本合意の段階で、買収価格の裏付けとなる算式を明示すべきである、との考えが出てきます。
 あるいは、デューデリジェンスにより純資産額や利益額の減少につながる問題が検出された場合には、かくかくしかじかの計算により最終的な買収価格を減額すると定めておく。
 最初に細かく取り決めておけば、売主も納得せざるを得ないはずだ、常人には思えます。
 問題点としては、角が立つことと、この取り決めの対象となる事由以外の値下げ交渉がしづらくなることでしょうか。

 ただ、商売の達人には、こういう事前の取り決めはない方が良いかもしれません。
 全てを白紙にしておいて、その時々の情勢と相手の心理に応じて、自由に、最大限に交渉できるようにしておいた方が良いかもしれません。
 客観的にはマイナス1のことを、相手がマイナス2と思うこともあります。
 しかし、事前の取り決めをしてしまえば、客観通りマイナス1です。

 また、もちろん、買収価格に裏付けとなる算式がなくとも、価格交渉ができない訳ではありません。
 このような場合にも値下げが合意に至るケースも多々あります。
 企業人としては、論理的な材料がなくても、交渉を試みるべきとも言えます。

 価格交渉は、デューデリジェンス終了後に一気に本格化します。
 基本合意段階では、独占交渉権を得るために、猫をかぶっている人が多いのでしょうか?
 値決めはデューデリジェンス終了後の1、2カ月間が勝負です。
 数値的根拠や正当性といったことからかけ離れた、
 「!・・・・・!!!!!」
 というような価格が提示されることもあります。
 「こ、これは、しばらく、凍るな・・・・・」と思ったりします。
 それでも最終的には話がまとまるのですから、若いうちから交渉を叩き込んできた人たちは、自分のような常人とは違うんだなあと、感嘆することしばしばです。 

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