中小企業M&Aにおける手続きの流れ・スケジュール / 後編

 M&A実務の基礎として、前回に引き続き、中小企業M&Aの全体的なスケジュールを見て行きます。
 全体像としては、大きく、次のステップがあります。

ステップ1 売手と買手の面談まで

ステップ2 基本合意の締結

ステップ3 デューデリジェンスの実施

ステップ4 最終交渉、株式売買契約締結

ステップ5 株式・株式譲渡代金の受渡

 今回は、前回に引き続き、ステップ3から説明して行きます。

ステップ3 デューデリジェンス

 デューデリジェンスとは、M&Aの対象会社への諸調査をいいます。
 一般には、財務、税務、法務、労務の各分野でデューデリジェンスが行われます。
 財務デューデリジェンスでは、対象会社の純資産価値および収益力の実態の把握を行います。
 調査基準日の決算書を対象として、不良債権や不良在庫がないか、簿外債務が存在しないか、直前各期の損益に異常な内容が含まれていないか、などを調査します。
 税務デューデリジェンスでは、対象会社に生じている税務リスクの把握を行います。
 税務申告書の閲覧や顧問税理士へのヒアリングを通じて、対象会社に追徴課税がなされるリスクがないかを確認します。
 これらは、買手の選任した会計士や税理士により行われます。
 法務デューデリジェンスでは、売手が法律上の正当な株主か否か、取引先との間に不当な契約を結んでいないか等の確認がなされます。
 労務デューデリジェンスでは、未払残業代等、未払となっている労働債務の有無や、労働法令へ抵触が無いかなどが確認されます。これらは、買手の選任した弁護士や社労士により行われます。 

 具体的なデューデリジェンスの流れは、次の通りです。
 まず、現地調査の2週間程前に、会計士や弁護士から、売手に対し、事前の資料依頼がなされます。
 一般には、次のような資料が依頼されます。

・会社謄本
・定款
・決算書、税務申告書、勘定科目明細(数期分)
・月次試算表(数期分)
・株主総会議事録、取締役会議事録(数期分)
・取引基本契約書、不動産賃貸借契約書、その他重要な契約書
・株主名簿、過去の対象会社の株式の売買契約書
・就業規則、給与規程、賞与規程、退職金規程
・雇用契約書・労働条件通知書
・給与台帳
・所有不動産の登記簿謄本

 これらの資料は、現地調査に先立ち、郵送やメール、またはウェブ上のデータールームを通じて、会計士や弁護士に提出します。
 なお、仲介会社がある場合には、その担当者が売手の資料収集や提出をサポートないし代行してくれます。
 会計士や弁護士は、これらの資料を咀嚼した上で、現地調査に臨みます。

 次に、現地調査が行われます。
 その実施場所は、対象会社内の一室か、従業員への機密性を重視する場合には仲介会社の会議室、あるいは外部の貸会議室となります。
 現地調査の期間としては、中小企業を対象とする通常のケースでは、2日から3日で、財務、税務、法務、労務の4分野のデューデリジェンスが終了するかと思います。
 一般には、対象会社の社長へのヒアリング、管理部門責任者へのヒアリング、資料の閲覧(入出金の証憑類、請求書や領収書の綴り、タイムカード等)という順序で調査が実施されます。
 仲介会社がある場合には、その担当者が立ち会い、司会進行をしつつ、資料提出のサポート等を行ってくれます。
 現地調査終了後は、現地調査時に保留となっていた事項につき、電話、メール等でのフォローがなされます。
 

 そして、現地調査から1~2週間後には、会計士や弁護士から買手に対し、デューデリジェンス報告書が提出されます。
 売手へ報告書を開示するかどうかは買手の判断に拠りますが、開示されないケースが多いかと思います。

ステップ4 最終交渉、株式売買契約締結

 買手は、デューデリジェンスの結果を受けて、対象会社の純資産価値および収益力の実態、潜在的なリスクや問題点等を把握します。
 これらを踏まえ、値下げ交渉の準備や、株式売買契約におけるリスクをヘッジするための条項の検討を行います。

 例えば、デューデリジェンスにおいて、未払残業代の存在が判明しました。
 この場合、2年(現行の労働債務の消滅時効期間)内に、残業代の支払いが求められるリスクがあります。
 これへの対処としては、2つの方法があります。
 まずは、買収価格の値下げです。
 次に、M&A後に、未払残業代が請求された場合には、その分を売手から買手に賠償する条項を株式売買契約に加える方法です。
 買手は、いずれ(あるいは両方)で交渉を進めるかを選択し、それぞれの具体的な内容を検討します。

 これらの検討を経た後、買手から売手に、買収価格その他条件について、申し出がなされます。
 その後、双方で交渉し、主だった項目について合意を形成します。
 仲介会社がある場合には、その担当者が交渉の間に入ってくれることもあります。 

 主要な事項につき双方が合意した後は、株式売買契約書の作成に入ります。
 仲介会社がある場合には、その担当者がドラフトを作成し、売手・買手で協議の上、この内容を調整することになります。
 また、仲介会社がいない場合には、売手・買手いずれかの弁護士がドラフトを作成し、売手・買手で協議の上、内容を調整します。
 当然ながら、株式売買契約は、全ての項目について、法的拘束力を持たせます。

 株式売買契約書が確定し、双方の社内承認を経た後には、その調印に進みます。
 調印式を行うケースもあり、仲介会社がある場合には、その担当者も立ち会い、安堵の表情で司会進行をしてくれます。

 デューデリジェンスの完了から株式売買契約書への調印までには、通常、1~2か月程度を要します。 

ステップ5 株式・株式譲渡代金の受渡

 株式売買契約書の締結日と、株式および株式譲渡代金の受渡日は、同日とするケースと、受渡日を後日とするケースがあります。
 受渡日には、株式譲渡代金の売手の預金口座への入金の確認と同時に、株券が引き渡されます。
 株券不発行会社の場合には、名義書換後の株主名簿を交付します。
 また、同日に、対象会社の会社実印等の引渡を受けるケースもあります。
 また、このような対面での手続を省略するケースもあります。

 さて、2回を通じて、中小企業M&Aにおける手続きの流れ、スケジュールを説明して参りました。
 ただし、これは順調に物事が進んだ場合の話です。
 デューデリジェンスで大問題が見つかり買手に動揺が生じたり、価格交渉の駆け引きで白紙撤回宣言があった等、色々な要因によりM&Aの手続が一時中断することもあります。
 そして、調印式で司会進行をできる日が遂に来なかった、という案件も、やはり、あります。
 会計士や弁護士はデューデリジェンスが終われば一仕事完了なのですが・・・・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です